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最高裁判所第二小法廷 平成9年(オ)2083号 判決

主文

一  次項記載の公正証書による強制執行を許さないことを求める上告人の請求中一三七九万一三四三円及びうち一三三九万五二五八円に対する平成五年六月一日から支払済みまで年三〇パーセントの割合による金員を超える部分につき、原判決を破棄し、第一審判決を取り消す。

二  前項の部分につき、札幌法務局所属公証人大下倉保四朗作成平成二年第四五六五号金銭消費貸借契約公正証書による強制執行は、これを許さない。

三  上告人のその余の上告を棄却する。

四  第一、二項に関する訴訟の総費用は被上告人の負担とし、前項に関する上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人大塚重親、同高木常光の上告理由第二点について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って若しくは原判決を正解しないでこれを論難するものにすぎず、採用することができない。

同第一点について

一  原審の適法に確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。

1  有限会社北海道サービスセンター(以下「訴外会社」という。)及び上告人と被上告人との間には、被上告人を債権者、訴外会社を債務者、上告人を連帯保証人とする札幌法務局所属公証人大下倉保四朗作成平成二年第四五六五号金銭消費貸借契約公正証書(以下「本件公正証書」という。)が存在し、これには、(一) 訴外会社は、平成二年一二月七日、被上告人から五〇〇〇万円を、利息を年九パーセント、遅延損害金を年三〇パーセントとし、平成二年一二月から平成四年一二月まで毎年末日限り二二〇万円ずつ分割して支払うこととし、これに違反したとき等には期限の利益を失うものとする約定で借り受けた旨、(二) 上告人は、訴外会社の被上告人に対する本件公正証書に基づく債務(以下「本件主債務」という。)を連帯保証し、右債務の履行を怠ったときは直ちに強制執行を受けることを認諾する旨の各記載がある。

2  訴外会社と被上告人は、平成四年五月七日、同日現在の本件主債務の残元金一九〇九万八五八五円につき、残元金に対する利息の割合を年九パーセントの割合とし、平成五年七月末日までに元利金を完済するものとして各月に支払うべき元利金を割り振り、平成四年五月から同年七月までは毎月三〇万円ずつ、同年八月から同年一二月までは毎月一二〇万円ずつ、平成五年一月から同年六月までは毎月二〇〇万円ずつ、同年七月は一七九万一三四三円を各月末日限り支払う旨合意した(以下「第一変更合意」という。)。上告人は、平成四年五月七日、被上告人に対し、訴外会社の右変更後の債務につき連帯保証した。

訴外会社は、第一変更合意に基づき、平成四年一二月までの分割金を支払い、本件主債務の残元金は一三三九万五二五八円となった。

3  訴外会社と被上告人は、平成五年一月中ごろ、訴外会社が同年四月末日限り本件主債務の残元金一三三九万五二五八円及びこれに対する平成五年一月一日から同年四月末日まで年九パーセントの割合による利息を一括して支払う旨の合意をした(以下「第二変更合意」という。)。

4  訴外会社と被上告人は、その後、訴外会社が同年五月末日限り本件主債務の残元金一三三九万五二五八円及びこれに対する平成五年一月一日から同年五月末日まで年九パーセントの割合による利息四九万八七四三円の一部に相当する三九万六〇八五円の合計一三七九万一三四三円を一括して支払う旨の合意をした(以下「第三変更合意」という。)。

5  訴外会社は、平成五年五月末日限りすべき支払を怠った。

二  本件は、上告人が、本件公正証書につき、(一) 第一変更合意は支払期日及び支払条件を変更するものであるから、本件公正証書は債務名義としての効力を失った、(二) 第二変更合意は更改契約であり、又は支払条件を変更するものであるから、本件公正証書は債務名義としての効力を失った、(三) 第三変更合意は更改契約であり、又は支払条件を変更するものであるから、本件公正証書は債務名義としての効力を失った、と主張して、本件公正証書の執行力の排除を求めるものである。なお、上告人の本件請求は、本件公正証書のうち弁済によって消滅した部分を含め、執行力の全部の排除を求める趣旨のものと解すべきである。

原審は、右事実関係の下において、上告人の前記(一)ないし(三)の主張はいずれも理由がないとして、上告人の本件請求を全部棄却した第一審判決に対する控訴を棄却した。

三  しかしながら、前記事実関係によると、第一変更合意は、最終弁済期を平成五年七月三一日として各月に支払うべき分割元金の弁済期をそれぞれ各月末日まで猶予し、当初の弁済期の翌日である平成五年一月一日から変更後の最終弁済期である同年七月三一日までの年三〇パーセントの割合による遅延損害金が発生すべきところ、これを年九パーセントの割合による利息として、支払方法を変更する旨合意したものであり、右合意のとおり本件公正証書の執行力を減縮させるものである。また、前記のとおり、弁済により、本件主債務の残元金は一三三九万五二五八円となったのであるから、本件公正証書の執行力は右部分に減縮されたものである。

したがって、平成五年一月一日以降についてみれば、本件公正証書の執行力は、元金一三三九万五二五八円のうち同年一月分から七月分までの各月末日を弁済期とする各分割元金及び各残元金に対する年九パーセントの割合による利息並びに同年八月一日又は本件公正証書に定める期限の利益喪失事由が生じた日の翌日から残元金及びこれに対する支払済みまで年三〇パーセントの割合による遅延損害金の限度で存在することになる。ところで、第二変更合意は、平成五年一月分から三月分までの分割元金の弁済期を同年四月末日まで猶予し、同年五月分から七月分までの分割元金について同日以降の期限の利益を放棄するものであり、さらに、第三変更合意は、平成五年一月分から四月分までの分割元金の弁済期を同年五月末日まで猶予し、同日までの利息のうち三九万六〇八五円を超える部分を免除するほか、同年六月分及び七月分の分割元金について同日以降の期限の利益を放棄するものであるところ、訴外会社は、平成五年五月末日限りすべき支払を怠り、同日をもって遅滞に陥ったから、本件公正証書の執行力は、残元金一三三九万五二五八円とこれに対する同日までの利息三九万六〇八五円との合計一三七九万一三四三円及び右元金に対する同年六月一日から支払済みまで年三〇パーセントの割合による遅延損害金の限度で存在することになる。

四  よって、上告人の本件請求は、右の部分については理由がないので棄却すべきであるが、これを超える部分については理由があるからこれを認容すべきであり、上告人の本件請求を全部棄却すべきものとした原判決には、法令の解釈適用を誤った違法があるというべきであり、この違法は原判決の結論に影響することが明らかである。

論旨は右の趣旨をいうものとして理由があり、原判決中、残元金一三三九万五二五八円とこれに対する同日までの利息三九万六〇八五円との合計一三七九万一三四三円及び右元金に対する同年六月一日から支払済みまで年三〇パーセントの割合による金員を超える部分につき、上告人の本件請求を棄却すべきものとした点は破棄を免れない。よって、右の部分につき、第一審判決を取り消した上、上告人の本件請求を認容することとし、それ以外の部分の原判決は正当であるから、その余の本件上告を棄却することとする。

よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 梶谷 玄 裁判官 河合伸一 裁判官 福田 博 裁判官 北川弘治 裁判官 亀山継夫)

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